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京都地方裁判所 昭和33年(ワ)398号 判決 1959年4月08日

原告

右代表者法務大臣

唐沢俊樹

右指定代理人大阪法務局訟務部検事

大久保敬雄

右指定代理人大阪法務局訟務部法務事務官

松谷実

右指定代理人大阪国税局大蔵事務官

中川利郎

右指定代理人京都法務局法務事務官

去来川重二

京都市中京区壬生松原町三六番地

被告

日本活版冶金株式会社

右代表者代表取締役

中川吉之助

右訴訟代理人弁護士

東茂

右当事者間の昭和三三年(ワ)第三九八号差押債権請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告は原告に対し金一六万三千九百八三円及びこれに対する昭和三三年五月一四日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え、

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は金五万円の担保を供するときは仮りにこれを執行することができる。

事実

原告指定代理人は主文第一、二項同旨の判決と仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、訴外株式会社大阪鉛工業所(以下訴外大阪鉛という)は昭和三十一年十月十五日現在、昭和二十七年度源泉所得税等合計金十六万三千九百八十三円の国税を滞納している。他方右訴外大阪鉛は前同日現在被告会社に対し昭和三十一年五月二十一日頃被告会社へ納入した輸入鉛二屯一一二、六瓩の代価相当額金二十九万五千七百六十四円の債権を有していたので、原告(所管生野税務署長)は前記滞納税金徴収のため国税徴収法第二十三条の一に基いて昭和三十一年十月十五日右債権を差押え、この差押通知は同月十六日被告会社に到達した。よつて原告は被告会社に対し、右差押額中訴外会社の滞納税金額である金十六万三千九百八十三円に及びこれに対する本訴状送達の翌日たる昭和三十三年五月一四日以降完済に至るまで年六分の割合による商法所定の遅延損害金の支払を求めると述べ、

被害の相殺の抗弁に対し、

被告主張事実中被告が訴外大嘉金属工業株式会社(以下訴外大嘉金属という)において訴外大阪鉛に対して有する債権を譲受けた事実及び被告会社が右債権を以て本件差押に係る債権たる訴外大阪鉛が被告会社に対して有する金額二九万五千七百六四円の債権と対等額で相殺した事実は何れも知らない。仮に被告がその主張する債権を譲受けこれを以て本件被差押債権と相殺する旨の意思表示をしたとしても、右相殺の自働債権である被告の譲受けた前記債権は、本件差押時には未だ弁済期が到来せず、相殺適状にはないから被告のなした相殺は無効である。

即ち訴外大阪鉛は昭和二十七年十月九日頃現在訴外大嘉金属外七名に対し、総額六百九五万二千七百三五円に及ぶ債務を負担していたが、極度の経営不振により到底その債務の弁済はでき難い状況にあつたため、各債権者の参集を求め、前後策を協議した結果、右債権者等との間に債務額の五〇パーセントは二回に分割の上支払うこととするが、残余の五〇パーセントは同会社の経営状態が好転し債務の弁済可能と認められるまでその弁済期を猶予する(いわゆる出世払)こととし、且経営状態が好転し残余債務の履行が可能となつたかどうかは、最も債権額の多い七宝メタル工業株式会社の代表者馬越舜三において訴外大阪鉛から決算報告書の提出を求めて毎期営業成績を検討して決定し、経営状態好転と認められるに至つたときに始めて他の債権者に通知し、可能な範囲で弁済額を一定し、これを各債権者間に債権額に応じて配分することと定められた。訴外大阪鉛の事業成績はその後も好転せず、昭和二十九年春頃からは、ますます悪化し、本件滞納国税の支払もできない状態であり、前記約定により棚上された五〇パーセントの債務について弁済期到来の事由は生じていないのである。従つて訴外大嘉金属の大阪鉛に対する債権も未だ弁済期が到来せず、被告会社がこれを譲受けたとしても、相殺の自働債権に供することができないから、被告の抗弁は理由がないと述べ

証拠として甲第一号証第二号証の一二を提出し、証人馬越舜三同武田弥兵衛の各訊問を求め、乙第一号の成立を認め、その余の乙号各証は不知と述べた。

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告の主張事実中原告が訴外大阪鉛の源泉徴収所得税を主とする滞納税の滞納処分として、訴外会社が被告に対し昭和三十一年五月二十二日までに有していた売掛債権に対して昭和三十一年十月一五日原処分者大阪生野税務署長大蔵事務官山下幸男を以て債権差押を行つたことを認め、

抗弁として、被告は訴外大阪鉛に対する債務につき昭和三十一年五月二三日訴外大嘉金属より譲受けた訴外大阪鉛に対する債権を以て相殺決済を行つた。従つて原告(所管生野税務署長)は既に右相殺によつて消滅した売掛債権に対してその滞納処分を行つたものであるから原告の請求は失当であると述べ、

原告の主張に対し、被告が相殺に供した債権は相殺当時既に弁済期にあつた。蓋し訴外大嘉金属が訴外大阪鉛に対する債権を漸時棚上げすることを承諾したのは、訴外大阪鉛が毎月未決算書を作成し、その経理状態を明かにすることが条件であつた。然るに訴外大阪鉛は昭和二十九年十月頃以降完全に決算報告書の提出を怠つたので、訴外大嘉金属は大阪鉛に対して、その決算報告を怠つたことを責めて追及したところ、右訴外会社間において、昭和三十年十二月下旬に別途解決案を立て昭和三十一年春早々に全金額の支払を受ける旨の約束が成立したと述べ、

証拠として乙第一、二、三号証、同第四号証の一、二を提出し、証人植村新太郎、同中川吉一の各訊問を求め、甲第一号証の成立を認め、同第二号証の一、二は不知と述べた。

理由

訴外大阪鉛が原告に対して源泉所得税を主とする税金の滞納があつたことは被告の明かに争わないところであつて、その滞納税額は成立に争ない甲第一号証によると、昭和二七年乃至同三一年度源泉所得税等合計一六万三千九百八三円であることが明かである。他方訴外大阪鉛が被告会社に対して昭和三一年五月二二日現在売掛代金債権を有していたことは当事者間に争なくその代金額は、証人中川吉一の証言と弁論の全趣旨により成立を認める甲第二号証の一、二及び乙第四号証の一、二を綜合すると合計金二九万五千七百六四円であると認めることができる。そこで原告は訴外大阪鉛にする前記滞納税金徴収のため、国税徴収法第二三条の一に基いて昭和三一年一〇月一五日、訴外大阪鉛の被告会社に対する前記売掛金債権を差押えたことは当事者間に争なく、その頃収税官吏たる大阪生野税務署長がこれを債務者たる被告会社に通知したことも被告において明かに争わないところである。そうすると原告は、国税徴収法第二三条の一第二項によつて滞納処分費及び税金額を限度として債権者たる訴外大阪鉛に代位するものというべきである。そこで被告の相殺の抗弁について判断するに成立に争ない乙第一号証と証人馬越舜三の証言を綜合すると、訴外大嘉金属は、訴外大阪鉛に対し、昭和二七年一〇月九日現在百万七千八百七九円の債権を有していたが、元来右訴外大阪鉛はその頃訴外大嘉金属外七名に対し総額六百九五万二千七百三五円に及ぶ債務を負担し、経営不振に陥つていたので債権者が参集し前後策を協議した結果訴外大阪鉛と右債権者等との間に債務額の五〇パーセントは二回に分割の上支ととするが、残余の五〇パーセントは一応棚上げとし、同会社の経営状態が好転するのを待つて譲次(編注。漸次と思われる)返済すること、訴外大阪鉛は毎月決算報告書を作成し、大口債権者たる訴外七宝メタル工業株払うこ式会社の代表取締役馬越舜三に提出することの約定が成立したことを認め得べく、証人中川吉一の証言により成立を認める乙第二、三号証と同証言並に証人植村新太郎の証言を綜合すると、訴外大嘉金属は訴外大阪鉛から前記約定に従つて債権額の五〇パーセントの弁済を受け、一応棚上げとなつている残余の五〇パーセントにつき昭和三一年五月二三日頃被告会社に債権譲渡をなしたことが認められる。ところで民法第五百五条は相殺の要件として双方の債務の弁済期にあることを要すると規定しているところ、証人馬越舜三の証言によると訴外大阪鉛は前記債権者会議以後もその事業成績が好転せず却つて悪化しつつあることが認められるから、被告会社が訴外大嘉金属から譲受けた五〇パーセントとの棚上債務については弁済期未到来のものというべく、これを以て相殺の自働債権となし得ないものとする。

被告は訴外大嘉金属が訴外大阪鉛に対する債権を漸時棚上げすることを承認したのは訴外大阪鉛が毎月末決算報告書を提出することが条件であつたが右条件が履行されなかつたので訴外大嘉金属は同大阪鉛と直接交渉し、昭和三一年春早々全額の支払を受ける約束が成立したと主張するが前段認定の債権棚上げに関する約定は訴外大阪鉛とその債権者たる訴外大嘉金属外七名の契約と見るべく、訴外大嘉金属が右約定に基く拘束より脱するためには、民法第五百四四条の法意より推して誓約書(乙第一号証)に名を連ねた契約当事者全員に対して有効に解除をなすことを要するものというべきところ、かかる事実については何等の主張も立証もない。よつて被告の相殺の抗弁はその余の判断を待たずして理由がない。

よつて訴外大阪鉛に代位して被告に対して差押債権中滞納税額金一六万三千九百八三円及びこれに対する本訴状送達の翌日たること記録に徴し明白な昭和三三年五月一四日以降完済に至るまで延滞加算税額の範囲内たる商法所定年六分の遅延損害金の限度においてその支払を求める原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条仮執行の宣言につき一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宮崎福二)

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